オーストラリアに長年住んでいたことと、その時に歌のレッスンを1年ほど受けていたこともあり、英語の歌や人の声の魅力を理解できるようになりました。
ピアノを習い始めた頃などは人の声にはあまり興味がなく、言葉が音楽を汚してしまうなんて考えていた時期もありましたw。クラシック、ジャズ、その他のテクニカルな音楽ばかり好んで聴いていた時期もありました。人の好みは年齢と共に変化していくものですが、音楽の好みも本当にそのとおりだと思います。そういう意味では味覚の変化と似てるかもしれませんね。今まで食べれなかったもの・食べようと思わなかったものが美味しく感じるように、楽しめる音楽のジャンルは確実に広がりました。人の声が一番素晴らしい楽器だと思えるまでになりましたw。
今回は英語の歌の魅力、日本語との違いなどについて書いてみます。まずは違いから。
目次
1つの音符に詰め込める情報量
前回ミュージカルについて書きましたが、ミュージカルなどは英語がオリジナルなので日本語に翻訳され、歌詞が作られると思います。英語の歌を日本語にした時にかならず起こること、それは歌詞の情報量が減るということです。
なぜこういうことが起きてしまうのかと言いますと、英語が1音に対し1音節(syllable)当てることができるのに対し、日本語は1音に対し1文字しか当てれません。
例えばbeautifulという単語は9文字からなる単語ですが、音節は [beau-ti-ful] と3つしかありません。なので音符は3つしか必要ないわけです。それに対し、beautifulに対応する「美しい」という日本語は漢字を含むと3文字ですが、ひらがなだと「うつくしい」と5文字あるので音符は5つ必要になります。
他にも例を挙げると、convenience store(コンビニ)は [con-ven-ience] [store] と2語で4つの音節です。これを日本語にすると「コンビニエンス・ストア」と10音節です。音符も10個必要です。これは、日本語の場合、1文字に対し必ず母音が1つ当てられるからであり、そう考えると日本語は音節の多い言語であり、「コンビニ」のように何でもかんでも省略してしまうのは、こういう言語の特性から来ているのかもしれません。一方の英語は、2つの母音がペアになっても1つの音を作るので、見た目は母音多いですが、音節は日本語に比べると少ないです。
というわけで、同じメロディー(同じ音符の数)で、歌詞を英語から日本語に変えようとすると情報量が減ってしまうということが起こります。なので主語を省略したり、短い単語や表現を使ったり、音符を分割したりといろいろな工夫をしてミュージカルなどの歌詞は訳されていきます。それでも歌によっては、感覚的に歌詞の内容が1/3くらいになってしまっているんじゃないの?と思うものもあります。ミュージカルを英語で観たいと思う理由の1つがここにあります。
ここで少し英語のリズムについても触れておきたいと思います。いわゆる脱線ですw。
英語のリズム
よく「音楽をやっていると耳が良いから言語の習得が早くていいよね」というようなことを聞きます。英語習得に関しては、ある一定の時間を費やせるかが一番大きな要素だと思っているのですが、音楽をやっていると少しだけ有利かなと思うところもあります。それはリズム感と強弱です。
英語は日本語とは違い独特のリズムを持つ言語です。例えば次の文を見てください。
My dog sat on the floor while eating his favourite food.
この文が話される場合、一般的に、青の太字の部分が強く発音する音節(stressed syllables)で、その他が弱く発音する音節(unstressed syllables)となります。音楽をやっていると、このリズムや強弱の面でほんの少しだけ有利かなという気がします。クラシックをやっていた方ならデュナーミク(dynamik)という言葉を聞いたことがあると思います。ドイツ語です。英語ならダイナミクス(dynamics)。音量の強弱表現のことです。
クラシックはダイナミックレンジ(最大と最小の音量差)が広いです。弱い音と強い音の音量差が大きいということです。一方ポップスのダイナミックレンジはそんなに広くないです。極端に強い音、弱い音はありません。クラシック音楽の録音の音量がポップスに比べ小さく感じるのはそのためです。音量の差が大きいので、最大値をポップスと同じにすると平均値はクラシックのほうが弱くなってしまいます。
なので音量の差だけで考えると、文章に強弱がある英語はいわばクラシック。一方の日本語はフラットな言語なのでポップスに似ていると言えるかもしれません。
音の強弱やリズムに敏感なら、この英語のリズムを身につけるのに少し有利かもしれません。そして英語のリズムが身についていると、多少日本語アクセントがあったとしても、言っていることが通じてしまうので、スムーズなコミュニケーションができてしまいます。そういう意味では英語のリズムを習得することは発音と同じくらい、あるいはそれ以上に大事な部分かもしれません。
ちなみに英語のリズムの中で、弱い音節は発音が変化したり、ほとんど聞き取れなかったりすることがあるので、これがリスニングを難しくしてしまいます。弱く発音される部分が聞き取れない。ネイティブの場合、脳が聞こえていない部分を補完して理解できるようです。
日本語はフラットな言語なので、この手の強弱はないのですが、例えば空港や駅構内のアナウンスなど、日本語なら騒音のせいで聞き取りにくい部分があったとしてもある程度理解できるように、人間の耳には脳が聞こえない部分を補完する能力が備わっているようです。
では、英語の歌の魅力についても少し。
歌詞に使われる言葉
英語の歌にはなぜ涙腺が緩む歌が多いのか考えたのですが、1つには普通に日常で使う言葉で歌詞が書かれているという点が挙げられると思います。主観がやや入っているかもしれませんが、英語のほうが日本語に比べて話し言葉に近い感じでしょうか。歌詞の内容がストレートに伝わってくる気がします。
洋楽のCDなどの対訳を読んだことがあるかもしれません。しっくりこないなと感じたり、伝わってこないと感じたりしたことがあるかもしれません。日本語になった時に、意味は分かるんだけど、ニュアンスまで伝わっていなかったり、なんとなく外国っぽいイメージの日本語になっていたり。。。例えば日本語の歌詞で多用される「あなた」という語ですが、日常ではほとんど使いませんよね。詩的にはなりますが。でも英語のYOUは日常絶えず使う語なので、やはりニュアンスは失われてしまうのかなという気はします。
なので、英語歌詞の和訳よりも、その曲の背景に関する記事や、その曲をどう解釈するのかといった記事を読むほうがその曲を理解できますし、心を打たれます。
韻(rhyme)
英語の曲、実はほとんどの曲が韻(rhyme)を踏んでいます。なぜ英語の歌は韻が踏みやすいのか?それは、英語の文が名詞で終わることが多いということと、母音と子音の組み合わせによる発音のバリエーションが多いということが挙げられると思います。それに対し日本語の場合は文章は大体が動詞で終わりますし、韻も母音の組み合わせなので単調になりがち。日本語の場合、韻を踏むためにあえて歌詞を名詞で終わらせなければいけないですし。
で、この英語の韻ですが、韻のパターンが聞き手に期待を起こさせ、韻が踏まれた時に「解決した」という感覚を与えます。この韻を踏む2つの語の関連度が強いほど「解決感」が強く、関連度が弱ければ、「解決感」も弱くなります。なので作詞家はこういった点を考慮しつつ、いろいろな感情を伝えるために韻を踏む語を選びます。
例えば、グレイテスト・ショーマンのNever Enoughのコーラス部分。
All the shine of a thousand spotlights
引用元:Never Enough 作詞:Justin Paul / Benj Pasek
All the stars we steal from the night sky
Will never be enough, never be enough
Towers of gold are still too little
These hands could hold the world but it’ll
Never be enough, never be enough
それぞれlightsとsky、littleとit’llが韻を踏んでいます。
まず、lights(光)とsky(空)の韻ですが、暗闇を照らすスポットライトは星が輝く夜空を連想させますし、a thousandやstarsという言葉も相まってこの2つの語の関連度は強いと思います。個人的にはかなり素敵な韻の踏み方だと思います。
そして後半の、littleとit’llが素晴らしい韻の踏み方だなと感じました。It’llなんてメロディーの最後でありながら、it’ll never be enoughと、次のメロディーにつながる文の文頭でもあるので。こんな韻を踏めるJustin Paul / Benj Pasekお見事です。では時間のある方は動画をどうぞ。
Never Enoughの動画を見て
私は調べるまで全く気づきませんでしたが、実は歌は吹き替えでした。ジェニー・リンドを演じているスウェーデンの女優Rebecca Ferguson(レベッカ・ファーガソン)ではなく、2012年にオーディション番組、The Voice USのシーズン3でトップ20(13位)になったLoren Allred(ローレン・オルレッド)が歌っています。歌が素晴らしいのはもちろん、全く吹き替えだと分からないレベッカ・ファーガソンの演技力も素晴らしすぎます。
レベッカはあるインタビューの中で、ローレンのアメリカ英語をイギリス英語にしてもらうようにお願いしたことや、ローレンのイントネーション、呼吸の仕方や声の使い方などを聴いて、声と演技がマッチするようにしたことを話していました。映画の撮影では、レベッカもローレンの声に合わせ、毎テイク実際に歌っていたそうですが、(というか声を出さずに演技するの無理ですよねw)レベッカ自身もストックホルムの音楽学校に通っていたことがあるようで、音楽的なバックグラウンドもあるようです。
あと、曲中でfor meというメロディーが3回繰り返される部分がありますが、ローレンは2回目と3回目のmeを「メーィ」と発音しています。盛り上がりを見せるこの部分で、声量を出すために単語の発音を変えるテクニックが使われていました。
実在したスウェーデン人のオペラ歌手で、当時最も高い評価を受けていた「スウェーデンのナイチンゲール」と呼ばれたジェニー・リンド。同じくスウェーデン人であるレベッカが持つ華やかさと演技力、そしてローレンの圧倒的な歌唱力という2人の才能のコラボレーションによって、そのキャラクターが見事に作り上げられていました。
レコーディングの違い
最後にオーディオの観点から。個性や才能溢れる人が多いからか、レコーディング・エンジニアがワンマンな仕事ができるからなのか、洋楽の音源はオーディオ的にも聴いていて楽しい音源が多いように感じます。聴いていて素直に楽しく、たまにニヤけるレベル。これはもうレコーディングに対する考え方の違いなのかなと。ジャンルは全く違いますが、例えば都市の作り方。欧米には凝ったデザインのビルやマンションが多いです。日本の単調なビルとは違い、見て楽しく、遊び心に溢れています。都会にも緑が溢れ、建物も古いものと新しいものが混在しています。そんな自由度や多様性を洋楽のレコーディングの音質からも感じます。
最後に
日本語の歌とはまた違った魅力のある英語の歌ですが、歌詞の意味を理解したら、韻を探したり、曲の背景を調べたりいろんな楽しみ方ができると思います。英語の歌詞を覚えて実際に歌ってみたりと、英語の歌を英語のままで楽しんでみるのもいいかもしれません。きっと新しい発見がありますよ。